笑わない彼を見たのは、その時が初めてだった。
大概くんはチームメイトに肩を叩かれながら、そのままフィールドを去っていった。
「…ちょっと、ユウちゃん待ってて!」
あたしはそう言い残すと、思わず大概くんの所へ走っていた。
もちろん何かをする訳でもなく、慰める事も出来ないとわかっていながら、足は勝手に動いていた。
フェンス裏まで行くと、水道の流れる音が聞こえてきた。
そのには、さっきまでフィールドで光っていた背番号10の大概くんの後ろ姿が見えた。
頭から水道の水を流している大概くんは、今まで見てきた明るい大概くんとは別人のように、険しい表情をしていた。

