「婚約してたって言うのは本当」

矢崎さんの言葉にズキっと心が痛む。

知りたかったことだけど、やっぱりきつい。

「でも、嘘の婚約」

「・・・え?どういうこと?」

そっと私を離すと、軽くオデコにチュッとキスをくれる。

そのまま手を繋いでソファーに凭れかかる。

「紗江はさ、大きいところの社長令嬢で、婚約者が決まってた。いまどき?なんて思ったりもしたけど、小さい頃から決められてたことらしくてな」

「うん」

「相手は今の旦那さんなんだけど・・・その人って言うのが大企業の息子で、次期社長っていう自覚からか表情がわかりにくい人でな、ま、紗江が不安だったと」

「紗江さんは、その人の事・・・」

「ああ、初めから好きだった。でも、相手の気持ちがわからないって悩んでて。で、俺と嘘の婚約をすれば気持ちがわかるんじゃないかって・・・そんな簡単にわかるのかよ?って疑問だったけど・・・・わかりやすかったな」

「そうなの?」

「おお、俺殴られたもん。あれは効いた」

フフッと微笑むと

「ま、それでうまくいったんだから良しとしたよ。後で紗江と芳春さんに思いっきり頭下げられて、紗江の両親にまで頭下げられたのには困ったけどな」

私のほうを見て、優しく微笑んだ。

・・・そっか。

そうだったんだ。

少し安心して。


じゃあ・・・

「じゃ・・・ピ、ピアスのことは?」

「ああ・・・あれは、3人で会ったときに子供も一緒に連れてきてさ。紗江以外の人にはなつかないらしくて、飲んでる途中で子供が寝るのにベッドを貸したんだよ」

あれ?って顔をして

「まさか、俺と紗江が何かあったとか思ってないよな?あいつ2人目妊娠してるし、雷太もいたわけだし・・・」

「あっ!」

そうか。

1番最初に紗江さんに会ったときに言ってた。

お腹に「2人目がいる」って・・・・思いっきり誤解してたかも・・・。

「「あっ」ってなんだよ・・・・」

呆れたような顔で私を見る。

「何かあったって、思ってたのか?」

誤解してたこと、恥ずかしくなって小さくコクンと頷いた。