「・・・さぁな。俺もはっきり聞いたわけじゃないし。婚約したって言うのも本当かどうかわからない。・・・ただ、紗江には小さい頃から婚約者がいてな」

「婚約者?」

「そう。お嬢様だからな。政略結婚ってやつじゃね?その婚約者もなんか色々絡んでるらしいし・・・秋仁もそのことになると何も言わなくなるんだ」

「・・・そう」

色々なことを聞かされているうちに、ひとつだけ思うことがあった。

「矢崎さんは・・・まだ紗江さんを忘れていないのかな?」

「それは・・どうかな。ま、過去は過去だからな」

過去・・・か。

俯いてしまった私を見ながら

「だから最初に言ったろ?秋仁はやめておけって」

心配そうに言う。

「・・・うん」

「秋仁はさ、いい奴だよ。友達としてはな。・・・でも、女関係になるとさ・・・いい男とは言いがたい・・・」

「・・・うん」

「柊子はさ、いろんな事我慢してんだろ?」

「え?・・・」

「見てればわかる。ずっとそんな感情もったまま秋仁と付き合っていけるのか?・・・苦しい恋愛することねーだろ?」

「・・・・・」

「たとえばな、秋仁が30才で柊子が23才とか・・・どっちも社会人になってるんだったら、俺も何も言わないんだけどさ。・・・出会うのがちょっと早すぎたのかもな・・・」

「そ、そんなこと・・・」

そんなこと、言わないでよ・・・。



「ま、好きな気持ちってのは、どうこうしようって思ったって、どうにもならないけどさ」

「・・・うん」

「ちゃんと考えろ?」

私の頭を撫でると、ライ君は車を少し走らせて、家の前まで送ってくれた。