「黒鳶、ただでさえ無駄な時間潰してイライラしてんだから大人しくしてろ」
「あ?そんなんだから血圧高くなるんだよ。その求人誌に導かれるまま組抜けろ。俺が幹部になるからよ」
「うるせえな!誰が苦労して手に入れた幹部譲るかよ!しかもてめえみてえなーーーー」

互いの鼻が触れる程に身を乗り出して唾を飛ばし合いながら怒鳴り合って居たが、坂本があたしの方をチラリと見て、言葉を止めた。

「…変態野郎なんかに」
「てめえに言われる筋合いなんざねえ!」

え、変態なの?

「…何だ、子娘」

あたしの視線に気づいた黒ちゃんこと黒鳶が睨みつけてくる。

「誰が…!」

「おっと黒ちゃん、客人を巻き込むのは宜しく無いよ」

松葉が黒鳶を笑顔で見た。
別にーーーー目が笑ってない訳じゃないのにつられて笑ったらしい黒鳶の笑顔が引き攣っている。

「…すみません」

前を向くと笑顔を引っ込め、仏頂面を決めて、行き交う人々を睨みつけている。
とばっちりも良い所だな、此処を通る人…
助手席の坂本はいつのまにか前に直り、読むのが何度目か分からないほど読んでいる求人誌を捲っている。
松葉は腕時計を見ると、そろそろ行こうか、と言った。

「…家、知られたくなかったら適当に近い所で降ろすから」

「あ、はいーーーーー」


バン!


誰かが、窓ガラスに両手をついた。