[真朱]

「…こないねえ」

隣に座る松葉がのんびりと呟く。
各地では猛暑日がうんたらとラジオが喋っている。
坂本は詰まらなそうに求人誌を捲っていた。
転職でも考えているのだろうか。

「そうですね」

そう返すと、酷い気温だ、と松葉が車の天井を睨む。
湿気が多くて蒸し暑い。
容赦無い日差しがアスファルトの照り返しとなって目に痛い。

「老体にはこたえるかよ」

意外にも口を開いたのは、運転席に座る黒い髪の男だった。
ハンドルに肘を付き、視線をバックミラー越しに送ってくる。

「……そうだねぇ…黒ちゃん」

「黒ちゃんって言うな!」

「ああ、こいつも坂本と同じだから。気にしなくて良いよ」

噛み付いた男をサラリと流してあたしに松葉が説明する。


『一緒にすんな!』


坂本と黒ちゃんの声がハモって、松葉はニヤニヤと笑う。