「…じゃ、行きますか」
男はニッコリと笑い、ガラスの自動ドアの前に立った。
「…オートロックですよ、此処」
「知ってるよ」
何か、紙とか紙幣とか、持ってない?
急にそんな事を言われた。
あたしはバッグを探っていたが、ふと目の前の男を信用して良いのか、心配になった。
「…金渡すの心配だったら、ノートの切れっ端とかでも良いよ」
再度笑う。
その笑みが『楽しそう』から『不敵』に変わった。
あたしはルーズリーフを一枚抜き取ると、男に渡す。
「Grazie, signorina.」
…何語だろう。
男はそれに少し折り目をつけると、ガラスのドアとドアの間に勢いをつけて、投げ込んだ。
紙は、細いドアの間を突き抜けた後、広がって、黒いマットの上にヒラヒラと舞う。
それと同時に、ドアが開いた。


