「あ……すいません」
スーツを着た男。
茶色の髪の上側だけ後ろで結んでいる。
背はかなり高い。
顔もカッコ良い。
「ごめんね」
その人は笑顔であたしに言うと、ケータイで電話をかけ始める。
「…ああ、今ついた……うん、あー…10分経って来なかったら、上がってきてくれよ…昔の知り合いだから、俺が行かないとダメなんだ」
ドラマか何かの様なセリフに、あたしは思わず男を凝視してしまった。
「…どうかしました?」
と、電話を切った男。
「いえ、……余計な事を言うかもしれないんですが、」
お金でも貸してるんですか?
言った瞬間、男が少し驚いた。
「…よく分かったね」
710号室の人に用事があるんだよね。
「え…」
それって、竹之内の部屋だ。
「…もしかして、君も?」
「ええ、個人的な理由ですけど」


