[隥本]

その日の夜は、酷かった。

久留米の店のカウンターに突っ伏す作家先生の隣に俺が座ると、久留米が煙管を咥えながら姿を現す。

「…今日はねえ、この人荒れるよお」

ニッと笑い、酒の乗ったトレイを見せた。

「何か…あったんですか」

顔を上げた作家先生は真っ赤な顔をしていた。


「…書くの、止めちまおうかな」


「あー…ってえええええ?!」


思わず大きな声を出すと、作家先生は煩い、と顔をしかめた。


「やな事あった日は飲んで忘れちゃおうねー」


久留米がドバドバとバーボンをグラスに注いだ。

「ちょ、ちょっと、酒に逃げるのはあんまり…」

俺が止めるのにも構わず、作家先生は一息で酒を飲み干す。