[竹之内]
朝、俺が坂本の部屋の前を通ると、坂本が縁側に腰掛けて煙草を吸っていた。
俺と同い年だと言うのに、随分と慣れた手付きで煙を吸い、吐き出す。
「あ、竹之内、おはよう」
にっこり笑う姿は、いつもの坂本だった。
「おはよう…」
「……どうかしたか?」
松葉からああ言う話を聞いてしまったので、少し気まずい気がする。
「…何でもない」
「風邪引いたなら多摩木さんとこ行けよ?」
「…ああ」
「なんだそりゃ……上の空だな」
苦笑する坂本が立ち上がって、俺の前に立つ。
相変わらず綺麗な緋色をした髪の毛が少し近づいた。
びく、と背筋を強張らせ、半歩下がる。
あ、と思った時には遅かった。
熱があるかどうか額に当てられた冷たい手が、スッと離れた。
その手が、身体の横でギュッと拳に変わるのをハッキリ見た。
「…聞いたのか?」
坂本は、どんな顔をしてるだろう。
「……うん」
ーーーーごめん
言いたいのに、喉の辺りで言葉が絡まって出てこなかった。
「ごめん」
坂本が言った。
え、と顔を上げる。
坂本と目が合った。
坂本は苦しそうに笑ってた。
「なんで…」
謝るの?
「…ごめんな、気持ち悪くて」
汚い手で、触って、ごめんな。
嫌、だったろ
その言葉で、やっと絡まった言葉を吐き出した。
「…ごめ、坂本、ごめん」
気持ち悪いなんて思ってない
俺はーーー話し聞いてからどういう風に接したら良いか分かんなくてーーーー
「ごめん…坂本」
気持ちを踏みにじるとはこの事か
頼むから、その笑顔を止めてくれ
いつもの坂本みたいに怒鳴り散らしてくれよ


