「あ、今笑ったでしょ?!」
「いや、別に…意外だなって」
ホントは全部知っているし、覚えている。
タケノウチミコトーーーー20歳、大学生だが殆ど学校に行かず、作家、ノオチコトミとしてケータイ小説とやらを執筆。家族とは離れて暮らしており、父親は数年前に他界。作家になる事を反対していた母親とは上無論上手く行っておらず、全く連絡を取っていない。他にも色々。
タケノウチと、
喋った事は、ない。
動いてるのを見た事も、ない。
但し情報だけは知っている。
恐らく今の真朱を精神的に叩き潰せる程の、モノも、知ってる。
それを言わないでいるのは、少なからず俺がこいつを傷付けたくないと思っているからで。
「…タケノウチはなんでケータイ小説を書いてたのかな」
「ホントは別のジャンルを書きたいんだけど会社が書かせて貰えなかったんだって」
「…ふーん」
「タケノウチはケータイ小説、嫌いみたい」
「なんで?」
「親指だけで人が孕んだり、死んだり、泣いたり、笑ったり、悩んだりするのがどうも薄っぺらくて嫌なんだって」
「…そうか」
日本は、なんか変だ。
行く人行く人ケータイの画面を覗いてる。
「それにあの人も若いんだけど、自分よりもっと若い人に堕ろすとか、ヤルとか、ヤクとか、簡単に書かないで欲しいって」
「…随分硬派なんだな」
「硬過ぎるんだよ」
スタッフルームと書かれたドアから、ロビーに出た。
窓ガラスに映った、背中の辺りの真朱の顔は、俺が見た事も無い程嬉しそうに笑っていた。


