[真朱]

何も考えずにドアを開く。
すると、ジョーヴェと男の人が話をしていた。
明らかに険悪な雰囲気が漂っている。
あたしはそーっと車の後ろに回り込み、ドアを開けた。

「あ」

男の人が声を上げる。

「…随分と懐かれてるじゃないか」

眼鏡を上げ、此方を見る目は冷たくーーーいや、蔑んでいるのに近かった。
あたしは怖くて顔を伏せた。

「モテる男は辛くてね」

ジョーヴェはそんな視線を全く気にする様子も無く、ウインクを一つして、エンジンを蒸かした。

「そっちの女も気付くだろう。どれだけ自分が愚かか」

男はジョーヴェに視線を戻し、嗤った。

「…それ、どういう事ーーー」

あたしが男の方に寄ると、

「おっと、そろそろ白い兎を見失っちまう」

ジョーヴェが戯けた様に辺りをキョロキョロと見渡した。