[坂本]

目の前の竹之内が倉庫の鍵を開ける。
開いた瞬間、モワッと埃っぽいニオイが鼻をつく。

「うげえ…マジですんの?」

俺らが今いるのは武道場。
組の金で建てた様な物なのだが、予約すれば、堅気の人らも使える。
週に二度ほど加藤と言うやつが剣道教室やってんだが…
俺はあんまり縁が無い。
やったことあるけど、あれ臭いし。暑いし。

で、倉庫の中にはーーーー

「臭い」

「…帰っても良いんだけど?」

「そうもいかねえだろ」

乱雑に剣道の防具が並べてある。
竹之内は何もしないで世話になるのは嫌だと此処の掃除を仰せつかった。加藤から。
で、俺は竹之内が危ない目に合わないように見張り役。

「…取り敢えず外出すか」

「嘘だろ…何個あると思ってんだ」

足の踏み場も無いほどにぎっちりと置かれた防具を見て溜息をつく。

「というか…なんでこんなにあるんだ?普通持って帰るだろ?」

竹之内が俺を振り返った。

「…分かんねーけど」

頭の後ろを掻きながら答えた。


「持って帰"ら"ないんじゃなくて、持って帰"れ"ないんだろ?」


「………ああ」


竹之内が察したらしく、黙って手近にあった防具を手にとった。