俺が目を閉じ、次に開いたときにはこいつらはもう亡きものになる。

どんなに強い相手にでもそう思って闘ってきた。そんな俺と対峙するには、こいつらはまだ未熟過ぎる。


いや…ただひとりを除いて、だが。


俺がそう思った時には、三、四人はすでに地に落ちていたことだろう。
退屈な時間だった。だから責めて息の根だけは止めないように、自分でも出来る限りの制約を持って、手刀を次々と打ち付けて行った。そして出来る限りの尊敬を持って、こいつらのトップであるだろう男にはナイフで喉元を…いや、まだだ。まだ、足りない。総てが揃わないと、快感は生まれて来ない。


「殺さないの?」

ナイフを喉元にあてられたまま、奴は平然とした様子と口調で言葉を吐き出した。口元はいい方向に曲がり、余裕もいいところ。リーディング能力でもあるのかね、それも心を読む。

「…」

「ははっ、ただの挨拶のつもりだったのに、こいつらがあんたの機嫌を損ねて、悪かったよ」

俺が黙っていると、目の前の男は倒れたチンピラのひとりを足で小突きながらいった。

こいつは、いい。
短い髪をワックスで立て、見かけはそう、いかにもティファレトで甘い蜜を吸って生きているようなお坊っちゃんタイプだが、こいつは目が違う。
ただのいいとこ育ちの道楽で、ワルをやっている訳ではなさそうだ。俺は黙ったまま、ナイフを奴の喉元から離した。


「用件があるんだろ、いえよ」


俺がそういうと男は丸い目をした。何にそんなに驚いているのだろう、いや、その正体は俺は知ってる。確実に。


「驚いたかい、俺はこれでも平和主義者なんだよ。用件があるなら口でナシつければいいだけだ」

「…驚いた」


正直に俺に賛同した奴は、また爽やかな笑みを見せつける。いけすかないが、別にいい。いま此処でやりあったって、俺にとってはちっとも面白くない出来事。奴にとってどうかは、知らないが。