その醜い顔に向かって俺は黙って唾を吐いた。男は不快感に顔をしかめやがて燃えるような目になる。可笑しいな、最上級の酒を口にしたはずの俺の唾がそんなに気に入らないか。次にもう一発、蹴りが頭に入った。ぐらぐらとした感覚が酔いと混ざりあい、俺は何故か恍惚とした気分になった。

自分自身の性癖に嫌気がさすね。
俺は弾けたように笑った。男たちがたじろぐのが解る。


「…で?わざわざティファレトからマルクトに何の用だい?知っているのか、此処はタウの王国だよ。ティファレトなんぞから来たチンピラもどきじゃ、その内身ぐるみはぐされちまうぜ」


立ち上がる動作をするたび、血が流れ、落ちてゆくのが解る。
だがわざとよろよろと、焦点を合わさないが如く俺は静かに、出来るだけゆっくりと立ち上がった。そうした方が、面白いからだ。こうして道化を生きることで、俺は俺の強さを維持してきた。


俺の前に立つ男たちを眺める。
美の街ティファレトにもこんな薄汚い連中が居るとはな、いや、彼処はただの美の栽培所だ。本質的には此処となんら変わりない。

何処も同じだ。
自分の強さをどうにかして表したい。そんなものに飢えた鼠に過ぎないのに、酷い勘違いもいいとこだな。

そして俺に絡むなんて、命知らずすぎる。
しょうがないね、相手はティファレトの人間だ。マルクトの理屈が通る筈がない。