「坊や」


奴の放った言葉に、俺は情けなくもビクリとしてしまった。地の底から登るような不吉なトーン。


「こんな街で…ひとりで…危ないじゃ、ないか。もしタウが、君の命でも狙っていたら…」


ずるずるとカタナを引きずって、奴はこちらに向かってくる。恐ろしいほどゆっくりと、…ゆっくりと。

俺は思わず後退りする。
なんだ、こいつ。
何だかおかしい。
この雰囲気、あの声。
引きずるカタナには幾千人もの血液がこびりついているように、不気味に光る。


「それとも」

奴がそう切るように云うと、それと共に奴の動きもストップした。
何を云おうとしているんだ教えてくれ出来るだけ早く。理由もなくそう思ったのは、何故なんだろう。

「坊やが、…タウだったり…してね、ふふ…」


危ない、と感じた時にはもう奴は目の前に居た。
一体どういうスピードなんだ?速すぎるし気配もなかった。こんな事を考えいる場合かと、奴の瞳を覗き込みながら俺は自分自身に云った。恐怖。奴の瞳は吸い込まれそうな赤。