暗雲の中に光が走った気がした。俺は足を止める。


雨の中に人影。
俺は危険な臭いを感じ、警戒した。からだは戦闘モードだ、なにせマルクトは下級層街の中でも治安の悪さはダントツ一位だからな。いつ何が、いつ誰が、ひとの命や金を狙うか解らない。そんな世界で俺は生きて来たんだ。


警戒しながらも相手を探る。奴はこっちを真っ直ぐに向き突っ立っている。タウかそれとも『メンバー』か、答えは直ぐに出た。そしてその後直ぐに武者震いが起きた。


間違いない。
今からやり合う相手だ―


迷わずナイフを取り出し身構え、そして酒を一気に口に含んだ。俺の興奮剤、マムシなんか目じゃねえよ。
なにせ今この時に俺は死の一歩手前に身を置いているのだからな、ウマイ酒はかっくらって、ナンボなんだ。


そんないつものスリルが、からだ全体にはしったと思った。
いつものスリル―生きるか、死ぬか。そんながけっぷちの世界に身を起きながらも生きるのが、楽しくて楽しくてしょうがなかった。

だが、今日のスリルは一味違うらしい。
戦士たるもの一瞬でも「負ける」などということを思ってはいけない。常にからだが生きる方向へ向いてないと間違いなくやられるからだ。ほんの少しの勘や弱音が、頭をかすめたらそれは戦士の「死」を意味する。

だが俺は思ってしまった。
「殺される」と。

奴がゆっくりと靄の中から姿を現す。
その輪郭がはっきりするにつれ、俺の中の「恐怖」も増幅していった。
長い刃―カタナか。
どういうことなんだ。あいつもただの色のない守備隊のひとりじゃないか。なのに何だこの気は?死神のベールを全体にまとったような、あいつの異様な気は―