「ごめんなさい、驚かせちゃった?」
少しハスキーで、けれど優しい声だった。
「俺、木崎北斗って言います。決して怪しい者じゃなくて……って言っても、こんなところで急に現れたら、十分怪しいよね」
そこまで言うと、その人はお腹を抱えるようにして大きな声で笑った。外見はクールな感じなのに、実は笑い上戸?!
私が不思議そうな顔で見つめていると、その人は急に真面目な顔になった。
「俺の名前ね、北斗七星から取って『北斗』なんだ。親父が天文学ファンで。そんなこんなで、俺もその血を受け継いじゃってさ。ガキの頃からよくここに遊びに来てたんだけど…」
ニコニコしていた彼の顔が急に少し曇った。「ちょっと海外に行くことになっちゃって、いつこっちに帰ってこられるかわからないから、最後に星見に来たんだ。でも急に眠くなったみたいで…気づいたら、カシオペアの話が始まってた、ってわけ」
「そうでしたか…すみません、私びっくりしてしまって」
私が頭を下げると、彼は笑った。
「いやいや、悪いの俺の方。ごめんね。高校生アルバイト君の練習の邪魔しちゃって…。その制服、北陵だよね。俺、ちょっとだけ先輩かも」
「えっ?うちの学校の先輩なんですか?」
「あ~そう言われるとちょっとつらいんだけど…俺、出席日数足りなくて卒業してないんだ。だから、ほんのちょっとだけ先輩」
そう言うと彼は笑った。
「カシオペアの話、おもしろかったよ。最後にいいもの聞かせてもらえて、俺ラッキーだな」
「そんな…私、恥ずかしいです…まだまだ練習足りないぐらいだし…」
「そんなことないよ。すっげー伝わってきたし、かなりいい声してるよね。なんか、すごく心地良かった。ほっとするっていうか…もっと聞いていたいな、って感じ」
真っ直ぐに見つめられながら、そんなことを言われたせいか、一気に自分の顔が真っ赤になったのがわかった。私は思わずうつむいてしまった。「君、名前は?下の名前」
「み…瑞希です」
「瑞希ちゃんのここでのバイトは、春休み中だけ?」
「はい、そうです」