館長との特訓は3日間に及んだ。
プラネタリウム館に到着すると、まずは掃除。一般上映の最中は事務室で、小学生プラネタリウム教室用の資料作成。
そして、一般上映が終わったあとに、実際の会場を使って本番さながらにナレーションの練習。
始めのうちは館長からダメ出しされることも多かったけれど、次第に誉められることが多くなった。そうなってくると「もっと上手くなりたい!」という欲も出てきた。


練習最終日。館長から
「ごめんなさい。どうしても先に終わらせなきゃならないのがあるから、瑞希ちゃん、先に行って練習しててくれる?」
と言われ、一人で一般上映が終わった会場へ向かった。真っ暗な中に、星だけが浮かんでいる空間…私はすっかりこの空間が気に入っていた。なぜだかわからないけれど、とても落ち着く。
私は、部屋の中央にある造影機のすぐ横のナレーション台へ行くと、マイクのスイッチを入れた。
「みなさん、こんにちは。春休み星座教室へようこそ。今日は北の空にある星座、カシオペア座についてお話します」
特訓の甲斐あってか、随分スムーズに読み上げられるようになった。一応、目では台本の文字を追っているものの、もし台本が無くても何とかなりそうなくらい、ほとんど頭に入っている。
「以上で、カシオペア座のお話はおしまいです。質問がある人、いるかな?いたら元気よく手をあげてください」
最後まで失敗することなく読み上げることが出来、ほっとしたのも束の間、聞こえるはずのない声が聞こえた。
「はーい!質問!」
男の声だった。
声がした方を見ると、若い男の人が立っていた。白いシャツを着ている。私よりも少し年上に見えた。大学生?身長は180センチくらいだろうか。すらっとしていて、痩せ形。茶色く短い髪に、切れ長の瞳。こんなに整った顔立ちの男性なんて見たことがない。このあたりの人なんだろうか?
私が驚いて声も出せずにいると、その男の人はクスリと笑った。