『おぉうサンキュー。じゃ明日な』

そう言うと電話は切れてしまった。
会話している間に、桐生は屋上へと向かって歩いていた。
屋上は施錠されており、誰一人として屋上にあがることは出来ない、普通の学校ならば自殺者の防止などで立ち入ることを禁じられているが、この端末学園は少し違った。
スーパーコンピューターNEOと言われる、学園の心臓部が設置されているからだ。
悪用すれば日本の全てを掌握できる程のスペックを持ち合わせたNEOは、ただの学園にはもったいない代物だ。何故そんなものが此処にあるのかは後ほど語らせてもらう事にしよう。

ガチャン。

誰一人として立ち入ることを禁じられた場所に桐生はいとも簡単に侵入してしまった。

「あぁ、やっぱりここが一番落ち着くわ。」

そう言うとNEOを冷却するファンの近くに腰掛ける。そこから冷気が漏れていた。
誰一人として入れない場所でなおかつ夏の暑さをしのげる場所。屋上は桐生のお気に入りの場所だった。
シャツから煙草を取り出すと、火を付け深く肺へと浸透させる。煙草を吸うことで、まるで全てを超越したような感覚に溺れる事ができた。
しかし、次の瞬間その至福の時を中止せざるえなかった。

「何をしてるんだ。」

バシンっ!!!
かなり不意をつかれた張り手は、右頬を確実にとらえていた。
驚きのあまり呆然としていたが、煙草の落ちる音と右頬の痛みが、目の前の女子生徒に意識を集中させてくれた。
栗色の髪に眼鏡をかけた女子生徒。
桐生に見覚えはなかった。
怒声を浴びせようと腹に力を込めたが、女子生徒に先手をとられてしまう。