教室をでると廊下は、冷房の効いた教室とはうって変わって最悪なほど蒸していた。グランドからは部活をする生徒の声が聞こえ、何か暑苦しさが上乗せされているような感覚を感じる。

「うぜぇし…あちぃ…。」

言葉にすればする程暑さが増し、桐生のイライラを逆撫でしていった。
突如として、廊下に武藤敬司のテーマが流れる。桐生の携帯の着信音だ。
周りの生徒の視線が桐生へと向けられる。

「ウィィィ!!!」

武藤敬司のお馴染みのポーズを真似する桐生だったが、既に周りの生徒から恐れを抱かれている身なので、どう反応すればよいかと困る生徒もいれば、触らぬ神に祟り無しと敬遠する生徒もいた。
フンと鼻で威嚇すると携帯に出る。

『おぉうオレだ真尋だよ。赤坂真尋。』

電話の主は赤坂真尋。
赤坂は、桐生の先輩で兄貴分である。
幼い頃からの悪友で、顔をつきあわせば最後、後には塵しか残らぬとご近所では評判の不良仲間である。
喧嘩もめっぽう強く、一人で地元族を潰したなどの伝説を残している。
そんな赤坂を桐生は兄のように慕い尊敬している。

『明日、地元に帰れそうなんだわ。家泊めてくれ。』

赤坂の仕事は、嘘か本当かシステムエンジニアでよく出張にでている。
今の電話も国際電話だ。
家に泊めてくれと頼まれたものの、赤坂の家は目と鼻の先にあるので、不思議に思ったが、久し振りに会えるのだからと了承した。