「けど…リコさんには幼なじみの梓さんがいたから、僕はあきらめたんです。

梓さんの方がリコさんにふさわしいと思ったんです。

しばらく失恋のショックから立ち直れなくて、そんな時に出会ったのが梶原さんだったんです」

当たり前のように昔話を話す杉里さんに、俺は黙って耳を傾けた。

「女将さんからお使いを頼まれて、八百屋さんに出かけたんです。

彼女は明るくて元気で、笑った顔も素敵で…僕は、恋をしたんです。

それ以来、お使いに行くのが楽しくなりました。

用もないのに、八百屋さんの前を通って梶原さんを見たり…って、僕はストーカーですね」

ハハッと杉里さんが笑ったので、俺もできるだけ笑った。

作った笑顔なんか見せても仕方がないのに…。

「だから、盆踊りに梶原さんがきてくれたらいいなって。

そうしたら、少しは話ができるんじゃないかって。

見ているんじゃなくて、話ができたらいいな…なんて」

「できたら、いいっすね」

我ながら心苦しかった。