春も嵐も

「…あれで、よかったの?」

荒い息を吐きながら、俺は聞いた。

「いいの、あれで」

落ち着いた様子で返事をすると、弥生は乱れた髪を整えた。

「あれくらいしなきゃ、美波と杉里さんを2人っきりにできないよ」

落ち着いているけど、どこか寂しそうだ。

けど、それを見せない弥生は強いなと俺は思った。

自分が杉里さんを好きなのに協力してあげて…俺が弥生の立場だったら、絶対にできないだろうな。

「はい」

そう思っていたら、目の前に黒革の長財布が差し出された。

高校の時からずっと使っている俺の財布だ。