春も嵐も

我ながら、何をやってんだよと思った。

こんな話をしたら、弥生が悲しむだけなのに。

杉里さんが美波さんを好きだってこと知ったら、弥生がショックを受けるだけなのに。

「やっぱり…」

全てを話し終えた俺に、弥生が呟くように言った。

やっぱり?

意外な反応だった。

「何となく、わかってた」

そう言った弥生だけど、話が全くといいほどに見えない。

「杉里さんが美波を見てたことをあたしは知ってた」

当たり前のように、弥生は淡々と話した。

「だっていつも八百屋の前を通っているうえに、さりげなく美波を見ているんだもん。

もしかしたら、杉里さんはあたしじゃなくて美波が好きなんだなって思った」

そこまで言うと、弥生は空を見あげた。

「あたしって、いつも裏方なんだな」

聞こえるか聞こえないかの小さな声で、弥生は自嘲気味に呟いた。