成熟と化して


佐藤は紙田の携帯に電話をかける

プルルル…
プルルル…
プルルル…

只今、電話に―…

出ない。
佐藤は病院に行ってみた。

―自分の勘違いでありますように…!!


真菜の病室を看護師に聞き、慌てて向かう

紙田が、真菜の病室の前のソファに座っていた。

「先輩!!」

「……」

無言のまま、紙田は佐藤の顔を見た。
普段は見せない、驚くほど無表情だった。

「先…輩…?」

佐藤は病室の中を見た。
ドアが開いていたのでよく見えた

真菜の家族と思われる人。看護師、医者が、真菜の周りを囲んでいた。

医者に続き、看護師も病室から出ていった。
やっと真菜の姿が佐藤は見えた。
ベッドの上には、真菜という器があっただけだった。


「……んで」

側で、紙田が呟く。

「なんで……今なんだよ…」

拳を握りしめ、足を叩く

「まだ……3日あるじゃねーか…!!!」

「なんで……な…んで…真菜なんだよ…」


「諦めなかったら……諦めなかったら……願いは叶うんじゃねーのかよ……」


紙田の声は静かに病院で響き、そして溶け込んでいった。




それから何日後

真菜の葬式が行われた。

紙田は時間より早く来ていた。
誰もいない部屋。紙田と真菜しかいない。

「真菜…聞こえてるか?」

「……」

「ちょっと…後悔したんだ、俺」

「……」

「デート、いや、散歩。ちゃんと自分ですればよかったって」

「……」

「だって、俺ならもっと楽しませることができたのに…」

「……」

「油断した。また会えると思ったから。またデートできると思ったから」

「……」

「好きだよ。真菜」

「……」

「もしかしたら、他に好きな奴ができるかもしれない、でも、お前のことは一生忘れない」

「……」

「そして、俺は無心論者だから、輪廻なんて信じねーけど」

「……」

「俺は都合がいい人間だ。だから、」

「……」

「生まれ変わったら、また会おう」

「……」

「そして、今度はいっぱいいっぱい話、いっぱいいっぱい喧嘩し、いっぱいいっぱいデートしよう」

「……」