成熟と化して




「え?退院ですか?」
医者に言われ、普通なら安堵するところだが、本気で紙田は嫌がった

―とうとう来たか

―真菜と一日中、いられなくなる。

そんな気持ちを抱えながら、真菜の病室へ向かう。

ドアを開き、真菜のいつもの嬉しそうな笑顔を見る

紙田が毎日来るようになり、寂しそうな笑顔を見ることがなくなった。

心の底からの笑顔。

「どうしたんですか?」

紙田の異変に気づき、真菜は怪訝そうな顔をした。

「え!!いや、何も」

慌てて笑顔を作る。
しかしまだ、真菜は疑う目で紙田を見ていた。

「もしかして、友達に哺乳瓶叩きつけられた所が痛むんですか?」

「ううん…」

「だったら何ですか?」

「…えっとさ、俺、退院することになったんだ」

「そうなんですか!!おめでとうございます!!」

真菜は笑顔で言った。
真菜を知らない人が見たら、とても喜んでいる風に見えるだろう。

でも、紙田は気付いた。
その笑顔が、出会ったときと一緒の、作り笑顔だということを。