成熟と化して


「いや…別にいいけど、君、大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

こうはっきり言われては、断る理由もない。
それに一人で夜の病院を歩き回ることが少し怖かった紙田にとっては有難い話だった

「うん、じゃあよろしく!!俺、紙田って言うんだ」

「私は真菜です。よろしくお願いします」

丁寧に頭を下げる真菜に紙田も軽く頭を下げた。

―二人の探検が始まった



「へー、10年もいるのか」

「はい、もともと心臓が弱く、一回倒れて…それからずっと―」

「なるほど、なるほど」

シリアスな空気にそぐわない口調で紙田は頷いた

「俺は佐藤って奴に殴られた」

「えっ…大丈夫ですか?」

「うん。大丈V」

「……」

満面の笑みのまま固まる紙田と、何のことかさっぱりといった真菜。

「あの…大丈Vではなく、大丈夫だと思いますが…」

「あ、あはは…」

さっきのは忘れろと言わんばかりの苦笑いをしたあと、元のニヤついた顔になった

「ところで、霊安室ってどこだ…?」

「さ…さあ」

看護師に霊安室どこですか?と聞くわけにもいかず、階段の途中で立ち尽くす二人。

「う…」

急に胸を抑えだし、うずくまる真菜。

「おい、大丈夫か?」

「はい…すみません」
本人は大丈夫といったが、とても苦しそうな顔をしている。息だって荒れていた

「ナース呼んでくる」
「待ってください」

急いで行こうとする紙田を、真菜は絞り出した声で言った。

「…私、あの病室に戻るのが嫌なんです」

「幽霊がでるから?」

空気にそぐわない言動だったが、真菜は頷いた。

「そうです…」