「あ、ありがとう…九条君。」
大きな声で素直に言えたら良かったけど…
照れくさい想いが勝ってしまって、聞こえるか聞こえないか分からないぐらいの小さな声を発してしまった。
でも、ちゃんと九条君には私の声が届いていたみたいで…
「紗智に“ありがとう”なんて言ってもらえるほどのこと何もしてねぇよ…。もとはと言えば、俺が金曜日に堂々と紗智を連れ去ったことが原因なんだからさ…。」
切なそうな声で、そう囁くと、体を少し離した。
そして…九条君は背を屈めて、目線を私と同じ高さに合わせる。
「本当にごめん。泣かせちまったな…。」
不意に私の眼鏡を外した九条君は親指で目尻に溜まっていた涙を拭うと…
その場所に軽くキスを落とした。


