「や、やめてよ急に!離れてよ!」 右手に持った携帯電話を少し耳から離して、かなりの小声で訴えたけれど、九条君は聞き入れてくれない。 もがく私を、両足の間にスッポリとおさめて、逃がさないように強く抱きしめている状態だ。 「相手が紗智の母さん…っていう感じがしねぇんだけど、誰と電話してんの?」 九条君が左耳の傍で呟く。 どうやら私の主張よりも、その疑問が頭の中を占めているらしい。 でも、こんな状況で素直に“朔矢君と電話してる”なんて答えづらいんですけど…。