そう・・・




彼はあの時、口を開きかけた私の手を取ると何も言わずに歩き出していた





「ちょっ、ちょっと涼・・・待ちなさいよ!」




後ろから慌てて追いかけてくる遥ちゃんを追い払うようにして

「用がある。」

発せられたその言葉は不機嫌という言葉が一番ピッタリと当てはような恐い声だった





だけどそれとは似つかわしく繋がれた手からは壊れ物を取り扱うくらいに優しく握る涼平くんの温もりを感じた






「りょ・・・涼平くん?」





追いかけて来なくなった遥ちゃんはどこか私を恨んでいるような気がした





睨まれる視線がそれを物語っているような・・・





そんな気配に背筋からゾッとするものを感じとっていた





引かれる先を目指して歩いているたら、

「…だから・・・」

「えっ?」

涼平くんが何かを呟いていたことに気が付いた





その言葉は聞こえるか聞こえないかくらい小さすぎて上手く最後まで聞き取ることが出来なかった





聞き返したことがまずかったのか大きな溜め息が聞こえてきたから聞き返したことに深く後悔してしまう




「だから用があるってウソだから」






ウソ?





その言葉を理解するのにどれくらいの時間がかかってしまったのだろう?





遥ちゃんの家から歩いてきた足は涼平くんの車の前で止まっていた




涼平くんが慣れた手付きで鍵を開け、車に乗り込んでいた






それでも立ち尽くしたままの私を見て涼平くんは運転席から窓を開けると不機嫌な声で紡いでいた



「乗って・・・」



その声にハッとした私は黙ったまま車に乗り込んだ





そのお陰で車内は話題もなく気まずい雰囲気になっていた――…