心の奥底で何か靄がかったように息苦しくなる
そんな私たちの間に静かに流れる沈黙――…
遠くの方から子どもたちの笑い声やお散歩中の人たちの挨拶をする声が聞こえてくる
静まる空間に車や自転車の騒音なんかがやけに耳に付く
その静かな沈黙はほんの数秒だけなのに、なぜかとても長い沈黙のようにも感じられた。
沈黙に堪えきれなくて、口を開こうとするけど、何を話せば良いのか分からなくてただ悪戯に時間だけが過ぎていく――…
その沈黙を破ったのは私でも遥ちゃんでも涼平くんでもなくて・・・
ガチャッ
「じゃあ、今から行くわ。おう…じゃあ。」
そんな声と共に玄関の扉を開け外に出てきた春馬さんだった。
「遥、今日、飯いらないって母さんに伝えといてくれるか?」
春馬さんは電話を切ると遥ちゃんに目を向けながら私たちを追い抜こうとしている。
「春兄、今から出掛けるの?」
訝しげな眼差しを春馬さんに向けながら、遥ちゃんは寂しそうな声色でそう紡いでいた。
「莉子が話しがあるんだって。遥、ゴメンな。
じゃあ、行ってくる。」
“莉子”
何度も聞いてるはずの名前
なのに胸の奥が痛いくらいにズキズキとするのは――…
「あぁ!それから・・・雪ちゃんと涼平くんはゆっくりしてくれて良いから。」
私のことを“ちゃん”付けで呼ぶから?
彼の言葉に開きかけた唇をキュッと強く結んだ。
今にも泣きそうな顔を強ばらせながらも作り笑顔で彼を見送る
それが私にできる唯一の優しさだから――…
