その溜め息は誰にも聞かれないように零したはずなのに目の前の男には聞こえていたらしく心配そうな顔で、見つめてくる。
そんな涼平くんの変化に気づいてない私は、泣きそうな目を彼女から地面に逸らすとあの子のことを口にした――…
「春馬さんが私の親友の家庭教師だったの…。」
「えっ?
親友って…?」
彼女は思いあたる節があるのか、目を細めて聞いてきた。
「田辺 莉子ちゃんって分かる?」
その言葉に目を丸くしたのは彼女の方で――…
「えっ!?」
って言う声は、突然の告白に驚いたのかひっくり返っているようにも聞こえた。
だけど彼女の驚きっぷりからして、彼女は莉子のことを知っているんだという事に気が付いた。
そんな遥ちゃんの豹変っぷりに、敏感に反応したのは涼平くんで――…
「遥?どうしたんだよ…?」
と、遥ちゃんに目を向ける。
「…いや…何でもねぇ~よな…?
遥!」
そう強い口調で念を押すのは私でも遥ちゃんでもなくて――…
春馬さんだった。
2人は私に何か言えないことを隠しているのか、何だか“莉子"の名前を出してから余所余所しくなった気がした――…
「…うん。」
目を伏せてそう返事を返す遥ちゃんに涼平くんは食いかっていく。
「はぁ?
そんな態度で信じられっかよ?」
私に背を向けていた彼はチラッと首を捻り顔を私に向けると「…なぁ?雪?」なんて声を荒げる。
涼平くん?
何だか彼の目をまともに見られず、目を逸らすことしか出来なかった。
