大学の広い講堂の窓際の前から5列目くらいに座る。
朝からの講義に気だるさを感じながら、鞄から“教育心理"のノートを取り出す。
あれから数日が経ち、私は涼平くんへのムシは止め、取り敢えず普通に接することを決めた。
何を言われても動揺はしない。
あれは事故だったと思うことに決めた。
事故だって思ったら、少しだけ気が楽になった気がする。
だけどどんなにそんなことを考えても、私のファーストキスが奪われた事実は変わらなくて、そのことを考えると悲しい気分にもなる。
『もう2度と恋なんてしない』って決めてたワリには私も好きじゃない人とはキスなんてしたくないとか考えてんだと思うと矛盾してるな…とか思っちゃう。
自分が思っている以上にもしかしたら乙女チックな考え方とかあるのかも…。
バカだ私…。
そんなことを悶々と考えてたら後ろから背中をポンと叩かれた。
「雪、おはよー!」
振り返ると後ろの席には満面な笑顔を向けてくる相手が――…
咄嗟に作り笑顔で返してしまう。
だんだんこの“作り笑顔"が上手くなる自分に吐き気を覚えながら、笑顔を向ける相手に気づかれないように溜め息を吐いた。
「莉子…おはよー!」
今日も可愛い彼女に目を向ける。
「ねぇ、聞いて!」
「聞いてるよ…いつも。」
「うん…あのね、もうちょっとで夏休みだね。」
「だから…?
それが言いたいんじゃないんでしょ?」
言いたいことはだいたい分かる。
莉子がだいたい甘い声を出して話し出す時は、決まってあの人の話しの時――…
だから冷たくなっちゃう…。
