一臣はニコニコしながら、クリームパンとコーヒー牛乳をあたしに差し出した。
「菜摘さん、これ。お昼まだでしょ?」
「わざわざ買いにいかなくても別に良かったのに。あたし、後で買いに行こうと思ってたんだ」
「そんな悠長なことしてたら売り切れてますよ。特に月曜日は争奪戦が激しいですからね。クリームパンは人気高いし」
一臣はそう言って、自分もパックの牛乳を飲みだした。
クリームパンは私の好物。たまたま今日はお弁当なくて、パンも買ってなかったから良かったものの、もし、あたしがお昼持参してたらどうしてたんだろ?でも、彼のことだ。
放課後のおやつにどうぞって言うだろう、彼はそんな子だ。
あたしは素直に彼の好意に感謝して、クリームパンをぱくつく。
「ん、美味しい」
すると一臣は満面の笑みを浮かべて言った。
「菜摘さんにそう言ってもらえると購買部でわざわざ並んで買ったかいがありましたよ」
「…本当に並んで買ったの?一臣?」
あたしは疑惑の眼差しを向けると、彼は慌てたように言った。
「ほ、本当ですよ、何を疑ってるんですか?」
「別に疑ってないけど…」
「じゃあ、俺そろそろツレのところ戻りますね、菜摘さん」
彼はそう言うと、ダッシュで西の校舎へと駆けていく。
本当、嵐のような奴…。
あたしはクリームパンをかじりながらそう思った。