春だ。
風は爽やか。甘い若草の香りを運んでくれる。
あたしは、校舎の裏庭のいつものお気に入りの場所でのんびりと草叢に寝転がっていた。
この桔梗が丘高校にきて3年目。
あたしはこの4月末で18歳になる。
このぐらいの年齢の4月生まれって損。皆はまだ17歳が多い中、私だけ一つ上になるのは正直言って悔しいし、おばさん扱いだってされてしまう。
私自身、あんまり変わらないと思うんだけど、負け惜しみに聞こえてしまうみたい。
「あっ、菜摘さーん、やっぱりこの場所にいたんですね」
聞きなれた声に振り返ると、同じクラスの森一臣が笑顔でこちらに向かってくる。
長身で筋肉質。独特のオーラがあり、遠目からでも一臣だとすぐ分かる。
「やっぱり一人の時はここにいるんですね」
「ちょっと、一臣。あんた、いい加減にその言葉遣いやめてくれない?
同い年なんだしさ」
あたしは少しだけ腕で上体を起こして逆光で眩しい彼に目を細めた。
「何言ってるんですか、菜摘さん。俺、普通ですよ」
彼は息を切らしながらそう言って、あたしの横に大きな身体を丸めるようにどっしり座る。
「あんたも変わってるわね…」
あたしは呆れて、まるで犬のように尻尾を振った感のある一臣を見る。
彼とはクラスメイトだ。
しかも3年間ずっと同じクラス。
「いやー、俺、菜摘さんとまた同じクラスになれたなんて、毎日がとても嬉しくて学校行くのが楽しくて…」
「そりゃ、私と同じ科目を選択していたら一緒になるのは当然よ」
「いや、それでも二分の一の確率で一緒になれたわけなんですから、これは神様がくれたプレゼントですよ」
一臣は笑顔を崩さない。
…付き合ってられない。