「姫・・・お怪我は?」

気遣ってくる氷雨を押し止め女は目を前に向けた。

そこには女に傷を負わせた妖が縮こまっていた。

「あなたに非はない。気にしなくていいわ。さあおいき」

女主の言葉にほっとしたように妖は仲間の元へ帰っていった。

洞窟には女と氷雨だけが残った。

「氷雨・・・まさかあの子が・・・」

女は目を閉じ漆黒の毛並みに顔を埋めた。

「瑛姫(えいひめ)・・・」

「会いに行かなければ・・・!あの人に」

さっと立ち上がった瑛姫は首にかけられている、石を手にとりしばらく見つめた。

緑に光る石は疾風のものと似ていた。いやそのものだった。

狼を一撫でしてまたがった彼女は駆け出した狼の背にぴたりと身を寄せ山を駆け降りた。