沈んだ気持ちのまま屋敷に戻った初姫は息をつく間もなくすぐに政行の暮らす「瑠璃殿」へと案内された。

彼女の暮らす屋敷とはまた違う雰囲気をもった場所だった。

真珠の宮は明るく華やかで生き生きとしていたが、
瑠璃殿は厳かで静かな屋敷だった。

「準備はようございますか?姫様。」

側についている織り姫も緊張気味だった。

「えぇ。織り姫。」

ゆっくりと扉が開いた。

ここに疾風様がいてくださったら・・・

不安に揺れる初姫はふと思った。

しかし、先ほどの葵の上の言葉が彼女の脳裏を駆け抜けた。


甘えては駄目ね。
所詮私は・・・

「陽妃様のお出ましにございます。」

はっと顔を上げると御簾の向こうには優雅な影があった。

「初子にございます。」

頭を下げると優しい声が降ってきた。

「陽妃と申します。お顔をお上げになってください。」

でも・・・
ためらっているとまた声がかかった。

「どうぞ御簾の中へ。」

は・・・?

「え・・・」

突拍子も無いことを言い出す女主人を慌てていさめる女房たちの声がした。

「陽妃様・・・!!何を仰せですか!?」

「だって、お顔を見たいんですもの。」

まるで子供のような言い方に思わず笑みがこぼれた。