「なんの音かわかりました。」
「やっぱりお前か。で、何を落としたんだ?」
「涙です。」
「涙?バカ言え。いくら床がガラスのようになったとしても、涙であんな音がするものか。」
神宮寺は笑い飛ばそうとした。が、すぐに気がつきやめた。
「お前も、もしかして・・・。」
「はい、もうこのメガネは必要なくなりました。」
メガネを取り投げ捨てた。
「こうしてても先輩の姿がはっきり見えます。」
「くそっ。」
神宮寺は天を仰いだ。
「ふぅ・・・。」
それから、大きく息を吐き言った。
「くよくよしてたってしょうがない。逆にこうなった事で・・・患者に対して診察もしやすい。研究成果だって自身で確認する事も出来るだろ。災い転じて福となすってやつだ。」
笑った。ただ、空元気の笑いと言うのは、なんとも哀しく感じる。それは桜井も同じだった。
「ははは・・・。」
一応、合わせてみたが、却って虚しくなったので、すぐにやめた。

「よし、患者のところに向かうぞ。」
場を取りなし、神宮寺は言った。
「はい。」
そうして桜井が答えた時だ。信じられない事が起きた。