「痛っ。」
モザイクの角がカナの指に刺さった。小さな血の玉がカナの指に出来た。
「大丈夫ですか?」
「あ、ええ。」
カナは血の玉を舐め、それから答えた。
「これって普通の病気・・・じゃないですよね・・・?」
「わかりません。」
自分の子供の事だ。母親は冷静ではいられない。
対してカナは子供の頃から、不思議なものが大好きだった。“びっくり人間”とかそんなタイトルのつくテレビはたいてい見ている。そこでは体が木のようになった人物、胸に心臓が飛び出ている人物・・・など、普通では信じられないようなものを、たくさん知っていると自負していた。そのカナが知らないのだ。普通の病気であるわけがない。
「とにかく病院に診せた方がいいと思います。」
幸いな事に次の駅は、大きな市民病院のある駅だ。母親に促した。
「わかりました。」
そんな事にすら頭が回らないのだろう。母親は妙に納得した風だった。

突然、ものすごい衝撃を感じた。
カナも、母親も、ベビーカーも車両の端まで飛ばされた。
「きゃああああああ・・・。」
叫び声が車内を埋めた。そして、意識を失った。

運転手はいつもとなんら変わらなかった。だからこそ、こうして客を乗せ電車を走らせている。
計器に目をやり、線路脇にある信号に目を配っている。何よりも安全を主眼に置いて運転した。こうやってもう十年経過していた。
線路は長い直線に入った。ここから次の駅まで、しばらく続いている。駅の手前にカーブがあるが、それまでの僅かな時間、気を休める事が出来る。
「ふぅ。」
軽いため息をし、もう一度計器に目をやった。数値に異常はない。それを確認し、再び前に視線を戻した。
「ん?」
はじめは変化に気がつかなかった。
景色はどんどん後ろに流れていく。いつもと変わらないと思っていた。
「ん?」
目頭を押さえ、それから目を凝らした。
今度は変化に気がついた。まるで昔のデジカメで撮った写真を見ているような感じだ。近くの景色はまだ理解できるが、遠くの景色は潰れたように何かわからない。大きなブロックに埋め尽くされている。
「どうしたんだ?」