看護婦の目に桜井は映っていない。哀しげな声で言った。
「ごめんなさい。声を聞かなければ桜井先生とは・・・。ごめんなさい。」
「声を聞かなければと言う事は、声は普通に聞こえるんですね?」
「はい。」
「教えて下さい。今、金田さんの目には、僕はどう見えているんですか?」
桜井の語気が荒くなった。
「モザイク・・・。モザイクです・・・。」
「やはり・・・。」
「やはりって何か心当たりでもあるんでしょうか?」
看護婦は桜井の言葉に食いついた。
「あの金田さん・・・。一瞬でも周りがモザイクに見えたりしませんでしたか?」
それを聞き看護婦は驚いていた。
「な、なんで知っているんですか?」
「それについて詳しく教えてくれないですか?」
「わかりました。」
少しためらいもあったが、彼女は話す事にした。

「あ、いつもこんな事しているなんて思わないで下さいね。」
看護婦は前置きをした。
「は、はぁ・・・。」
桜井には彼女が何を言いたいのかさっぱりだ。
「ここで何人か看護婦がやめちゃって大変じゃないですか。それで、それでなんですけどね・・・。」
「さっきからどうしたんですか?様子が変ですよ。」
お互いに姿は見えていない。しかし、様子がおかしいのはすぐにわかった。
「ほらっ、桜井先生も一応先生じゃないですか。院長とか婦長に告げ口とかされても困るし・・・。」
金田の“一応先生”と言うのが気になった。が、そんな事を気にしている場合ではない。
「告げ口って・・・そんなのしませんよ。お願いです。約束します。だから話して下さい。」
「そこまで言うのなら話しますけど・・・。絶対に内緒ですよ。」
「わかりました。男に二言はありません。約束します。」
看護婦はやっと話をはじめた。

「最近、みんな疲れてて・・・。」
話はそこから始まった。桜井は何も言わず、次の言葉を待った。
「ホントに少しの時間ですよ。特にナースコールも珍しく鳴らなくて、気がついたらウトウトしちゃったんです。」