「3…2…1…スタート!」

若菜の声と共に、俺と千草は自転車を漕ぎ出す。

学校の校門前。

長い下り坂を、どちらが先に下り切れるか。

俺と千草の勝負は、最早下校時のお約束になりつつある。

俺の愛車は黒のマウンテンバイク。

千草のはオレンジ色の通学用自転車。

千草曰く、『流星号』という名前らしい。

スタートと同時に前に出たのは千草の流星号。

「先行逃げ切りだぁ!」

いきなり立ち漕ぎで加速して、距離を稼ごうとしている。

「いっけぇっ、千草ちゃん!」

スターターを務めた若菜も千草の自転車の荷台を押し、加速に一役買っている。