だから、私は愛なんて嫌いだった。


愛は脆(もろ)い。


小さい時は知らなかった外の世界に足を踏み入れた時、初めて見たものは空。


綺麗な色で澄んでいて、なんだかわからないけど泣いてしまったのを覚えている。


どこまでも続く空が大好きになった。


父にいくら殴られても、監禁されて小学校に行くまでご飯をもらえなくても、


空を見れば頑張れた。


激しい虐待を受けていても、


それを少しでも話すそぶりを見せれば父や母の暴行が酷くなる。


例え、初めて出来た友達に裏切られても


空だけは、


私の味方だった――…







昔を思い出していた時、ふと人の気配がして私ははっと顔を上げた。





「お、気づいた?」



ふわりとその影が微笑んだ。


私は思わずあとずさった。


何かされるかもしれない、逃げたことをばらされるかもしれない。


そんな恐怖が頭の中を駆け巡った。


黒いスーツの男はやがて悲しそうに笑うと「よいしょ!」と言ってすぐ側のブランコに腰をかけた。


二人しかいない、真っ暗な公園に


雨の音に混じりながらキィとブランコが揺れる音がする。



「雨、うっとおしいね。」



妙な沈黙の後、未だ少し後ろに下がる私の方に男が笑いかけた。


じっと見つめられていて、やっと返事を迫られているのだと気づいた私は首を傾げた。


適当に交したのではなく、実際のところ、嫌いではなかった。