『だから、声をちょうだい。』

さっき、私を呼んでいた声だった。
でも、さっきの声とは違って、なんていうか…
憎しみのこもったような声だった。

『声、ちょうだい?』

呆然としている私に、あおはもう一度言う。

あおの目からは光が消え、無表情だった。
そして、ただただ怖かった。

「い…嫌…」

声がどうしても震えてしまう。

『声、ほしいの…』

あおに手をつかまれ、私はどうにも出来なくなって…
手を振り払い、叫んだ。

「いやぁっ!いや!」

それしか出来ない自分が…情けなかった。

『ねぇ…。かなで…』

声をあげてしまえばそれで済む。
でも、それは嫌だった。

あおはそれでも、恐ろしいくらいの無表情で私に言う。

「いやぁぁああああ!」

…叫ぶことしか出来なくて。

一度振り払ったはずの手が、また私の腕をつかんだ。
私は目を閉じた。

この、怖いところから、逃げたかったから。