―私の家は、この町では有名な、ちょっとした豪邸。
お父さんが大会社の社長…らしいから。
お父さんは帰ってこないし、私は顔も覚えていない。
というか、お母さんに話を聞いただけだから、私は何も知らない。

お父さんは、どんな人なんだろう…

そんな事を考えている内に、いつの間にか家の前にいた。


家に入ると、もう既に医者の姿があった。
私は床に座らせられていた。

…大きな病院じゃないと原因も分からないだろうに。
それ以前に、きっと治らないだろう…な…。

と、そのとき。
頭の中に、ふと何かが浮かんだ。
突然すぎて、よく分からなかったけど…

…人?

知らない人が、私の頭の中に浮かんだ…。

「…?どうしたの?奏。」

お母さんが心配そうに覗き込んでくる。

「なんでも…ない…」

よね…?

よく分からないけど…なんだか…
怖いような…

考えてるうちに、診察が終わったみたいで、私から離れた場所で先生とお母さんが話していた。
私は聞き耳を立てて、二人の会話を聞く。

「現代…医学では…わかりません…はい…多分…」

「多分?」

「―せんね。」

よく聞こえなかったけど…
お母さんの反応を見て、だいたいの予想がつく。

『治りませんね。』

きっとそういったのだろう。
お母さんが、残念そうに肩を落としている。

―…どうせ、治せない。

私の頭の中を、その言葉が回っていた。


先生が帰ると、お母さんはしばらく浮かない顔をしていたけど、すぐに笑顔で私にこう言った。

「奏、買い物に付き合ってくれる?」

お母さんのその問いかけに、

「うん」

と、私は一言で返していた。