「奏(かなで)」

後ろから名前を呼ばれる。

「何してるの?」

そう言いながら、その人は私の前に回った。

「別に…。風に当たりに」

その人…
私のお母さんは、私が素っ気無く返したから、少し呆れた様子で口を開いた。

「戻りなさい。先生が来てるわよ。」

先生…。

医者のことだ。

お母さんは、私の足を治すために、いろいろな医者を呼ぶ。
いつもいつも、呼んでは…同じ答えを聞いて…
その繰り返し。

「ほら。奏。」

お母さんが、私をせかす。

「嫌っ!」

繰り返すのが嫌だから、私は反抗した。

「どうせ治らない…!そのくらいわかる…!」

自分でも、なんとなく分かる。
どんな医者を呼んでも治らない。
病気なんかじゃない、って事ぐらい。

「今日はいい先生に来てもらったわ。大丈夫、治るわよ。」

お母さんも、必死で言う。

「治るわけ…ない。」

最後の抵抗。

でも、きっと無駄だ。
どんなことをしても、きっと連れて行かれるから。

「…奏。少しだけ我慢して…ね?」

車イスが動き出す。
お母さんが押し出したからだ。

「…」

私はただただ無言でいた。