教室から聞こえてくる声しか響いていない、誰もいない廊下を二人並んで競歩並の速さで突き進んだおかげで何とか間に合いそうです。教室はもう目と鼻の先ですから。

少し速さを緩めて息をついたとき
「あ、あのねあさかちゃん…」
さっきまでとは打って変わって少し気まずそうな声が隣から聞こえてきました。
そこにはどこか気まずそうな表情をした柚木ちゃんがいて。いつもほんわかとした雰囲気でニコニコ笑っている柚木ちゃんにしては珍しいですね。

「言おうかどうか迷ったんだけどね…。」

一拍置いてまた何かを言いかけた時「あー!脱走犯が帰ってきた!捕獲、捕獲!」と賑やかな声が私達の間に突然響きました。
教室の入り口から大声で叫ぶ諒ちゃんの声に遮られてしまったみたいですね…。って私は都会に出没したタヌキやハクビシンじゃないんですけど。

「…やっぱり言うのは止めておくね。あんまり良い話じゃないし。」

持ってくれていたプリントを私に手渡すと「じゃ、お手前頑張ろうね」と一言残して教室の中に入っていってしまいました。