ラヴレター(仮)

「でも、お疲れさま。今日は打ち上げでもするの?」

新曲が、……あたしにとっては懐かしく聞き慣れた、そして古傷をえぐる、幸せと哀しみがないまぜになった感情を呼び起こす、曲がまたテレビから流れてくる。

聴きたくない、とは言わない。
けれど泣きたくはないから、早口に告げて話題を振る。

『イヤ、明日もライブだしこれから移動する、来週には帰るよてー』

「今期最も注目のバンドメンバーは忙しいねぇ」

茶化して、どうにか気持ちを持ち上げる。


もし、あの時みんなに言わなかったら。
もし、あの時忘れ物を取りに行かなかったら。
もし、あの時あの道を通らなかったら。


そんなIf、仮定が浮かぶ。

それは過ぎ去ったことであり、訪れることのない未来。
変わることのない今がここにある。

『茶化すなばかやろ、んじゃ来週、帰ったら飲もーぜ』

過去に囚われそうになってるあたしのことなど知らず、底抜けに明るい一平の声を届けて、繋がりは切れてしまった。