何故なら、その声が春樹の手のひらに乗っている花びらから聞こえた気がしたからだ。
まばたきした後に、花びらをもう一度よく見直してみたが、やはり春樹には光って見える。
自分は寝ぼけているのか、もしくは夢を見ているのだろうか。
だが、未だに少し痛む腹が夢ではないことを嫌でも教えてくれている。
それでは、やはり寝ぼけているのだろうか……?
いや、それはあり得ない。
秋の一撃を喰らったばかりなのだ。目はこれ以上ないくらいに冴えている。
「……気のせいか」
そうだ、気のせいに決まっている。今日は、引っ越しの準備や布団探しで疲れてしまっているにちがいない。
春樹が花びらを地面に戻した瞬間、強い強風が吹いた。
今まで、風なんて少しも吹いてなどいなかった。
吹き荒れる風は、大量の花びらを舞い散らす。
「うわっ……!?」
思わず目を閉じてしまった春樹は、再び目を開いたときには強風は既に止んでおり、大量の花びらは姿を消していた。
……風に流されてしまったのだろうか?
暫くの沈黙の後で、春樹は異変に気がついた。
「……花が白い」
うっすらと、向こう側が見えてしまうほど薄く白い花。
「あなたは、誰?」
「っ……!?」
「誰なの?」
すぐ隣から聞こえてきたか細く、消えいりそうな声。
