『麗子は婚約の身でしょう?貴弘さんに言っちゃおうかなー。』


美雪は点滴の準備を素早く進めていきながら、横にいる麗子に冗談混じりの言葉を発する。


『婚約していても、女は女心を捨てないものなんだから。』


『やだー何言ってるのよ。同じことを貴弘さんに言えるー?』



笑いがかった言葉を投げかけたが、麗子の表情は悲しみに曇ったようだった。



『言えないよ。私は何も言えないの。言ったら嫌われるから。私はいつも何も言えない…。』



『麗子…?』




いつもとは違う麗子の様子に、美雪は返す言葉が見つからなかった。