「あんな薄暗がりで、おかしいなあ」

賑やかな参道から外れて、提灯の明かりにポツンと浮いてるおじさんの店は怪しい。

美保子が不審がるのも当然だ。


「何売ってるんだろ。おいしいものかな」

あたしはおじさんの前に並べられてるものが気になって、少しずつ近付いてみた。

「やめときなよ、変じゃん」

眉をひそめる美保子。

「大丈夫だよー。ちょっと見てくる」


ベニヤ板の上にブルーシートをかぶせた台の上に乗っているものは……。

「いらっしゃい」

おじさんがボソッとつぶやいた。

「こんばんは」

台の上に並べられていたのは玉子。

え? なにこれ。

ヒヨコじゃなくて玉子??

しかもただの白い玉子。
「これ、なんの玉子ですか?」

小さい声で聞いてみた。
おじさんは何にも言わない。

あれ? 聞こえなかったのかな……。


「あのっ、なんの玉子ですかあ?」

大きい声で聞いてみた。
するとおじさんは、無言のまま上を指さす。

指先を追っていくと、画用紙にマジックで書いた看板らしきもの。

「こいのたまご」

はあ、なんだそれ。

ただの白い玉子じゃん。
「こいのたまごってなんですか?」

おじさんはまた何も言わない。

「ねー…教えて?」

「ひとつ100円」

「は?」

おじさんはそれっきり黙ってしまった。