連れて来られたのは、いつものあたしたちの出没エリアとは逆方向にある、こじゃれたショットバーだった。
「マスター!ひっさしぶり〜!!」
扉を開けた途端、ミサトが手をあげて叫んで、
「おー!ミサトちゃん?最近ご無沙汰じゃん。もしかして浮気?」
30代半ばと思われる、ホスト並みに容姿が整ったマスターが笑いながらそれに答えた。
あたしの知らないところで、ミサトはかなりこのバーに通い慣れてるらしい。
「おっ!今日は美人さんも一緒?サービスするよ」
バチッとウィンクをされたかと思うと、神業のように2つのグラスがテーブルに並べられた。
サクランボが添えられた、淡い桜色のカクテルはあたしに。
マスカットが添えられた、エメラルドグリーンのカクテルはミサトに。
「ほんと噂通り、桜って感じだね。マイちゃん」
「えッ!?どうして、名前……」
「いつもミサトちゃんはマイちゃんの話しかしないから」
ミサトを見ると、フイーっと顔ごと逸らされた。
「マイちゃんの歴代彼氏の名前も言えちゃうかもな、オレ」
そんなことまで話したのか!!
初対面なはずなのに、もう何もかも知り尽くされてるような気がして、下手に口を開くと墓穴を掘りそうで。
自然と大人しくなっていた。

